Concept / 小さい椅子

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はじまり・・

きっかけは幼稚園で使う椅子のデザインを引き受けたことです。先輩のお手伝いとしての仕事でしたから、デザイン、試作、そして制作まで共に作業しました。出来上がった小さな椅子に座ってみると何かとても懐かしい景色が見えました。目線が低くなったことや座ったときの姿勢もあるかもしれません。とても楽しい気分。それに、思いのほか良い座り心地だなと、ちょっとした発見でした。

幼稚園の椅子モノ作りを始めた頃から思っていたことですが、いわゆる子供椅子という一時期しか使わない物を作るという考え方にとても違和感がありました。家具はとても長く使えるものですから数年だけ使う物を作るのには抵抗があったのです。でも、幼稚園の椅子に座ったとき・・「そうか」と思いました。小さな椅子に色々な可能性を感じたのです。しばらくして気付きました。「大人用の小さい椅子」を作れば良いのだと。

こどもたちは大きくなります。元気に成長してほしいと思います。それは社会全体、みんなの願いです。また、家具は長持ちします。ちゃんとした物は長く使ってほしい。これは作り手の願いです。そこで、もし子供椅子を作るのなら、初めから大人を意識して作る。大人になったときも使える椅子を作る。そうすればずっと使えるのですから、使う人、作る人、みんなの願いがかないます。

長い時間の流れの中で椅子と共に思い出がひとつ、またひとつと生まれていったらいいなあと思います。長く使えるものだからこそ、その使われ方を考える。そしてそれに合った作り方を考えること。これは作り手の大事な仕事だと思います。

2002年、4人の作家が出会い、小さい椅子という考え方に共感が生まれ、このプロジェクトが始まりました。それぞれに独立した工房を持ち活動していますが、「小さい椅子」では一緒になって考え、活動しています。

まじめに考え、まじめに作る。僕たちにできることはそれだけですが、物の価値がわかりにくくなった時代だからこそちゃんとした物を作る必要性を強く感じます。まじめに考えたら小さい椅子という他にはない発想での椅子の提案となりました。皆さんに小さい椅子のおもしろさと使い勝手、さらにモノ、家具が本来が持っている色々な可能性を楽しんでもらえたら嬉しいです。


小さい椅子、踏み台、ポテ丸

大人も子供も楽しめる椅子

小さい椅子は子供椅子サイズの椅子ですが、色々な形、タイプがあります。基本は座面高25cmくらいの小さな椅子。サイズは小さいですけど、大人も座れるように設計しています。座面の大きさや椅子の強度は大人も楽しめるようにしてあります。大人が踏み台にしても大丈夫です。

小さい椅子には子供が使うことを強く意識したものと、むしろ大人用と言った方がいいものがあります。それぞれの作家が「小さい椅子」という考え方をそれぞれで解釈して作っていますので色々なバリエーションが生まれてきます。唯一制限があるとしたら大人も子供も座れる椅子ということでしょうか。でも、たまに誰も座れない椅子(観賞用)ができてしまいますがこれもまた小さい椅子の面白さだと思います。つまり、小さい椅子には機能する椅子とよりアートに近い椅子がありますが、作家が作る物には両方の可能性があるのでどちらの椅子も作っていくことが大事だと思っています。

小さい椅子は子供椅子、玄関椅子、あるいはリビングで使う椅子になります。小さいからどこにでもちょこっと置けるので色々な使い方ができるようです。


小さい椅子、椅子2.5

大人の目で見るデザイン

小さい椅子は一時期しか使わない、いわゆる子供椅子とはちょっと違います。ちゃんと作られた家具はとても長持ちですから子供の時から使い、大人になっても楽しめる椅子にしたいなと思ってこの企画を始めました。

家族みんなに使ってもらいたいと思いますから、大人のことも、こどもたちのことも考えていたい。小さい椅子を作るとき、大事なのは素材だと思っています。物の質感というのは素材とその扱い方で変わってきます。小さなこどもたちは大人のような言葉を知りませんから物に出会ったときに「質感」について話すことはありません。それでも彼らの感性でしっかりと受け止めていると思います。そしてずっと覚えていると思います。その肌触りや匂い、重さや柔らかさを。大人になってその情景や感触を思い出すことでしょう。、もしそうであれば、ちゃんとした素材を選び、しっかりした物を作らないといけないと思うのです。

小さい椅子は子供椅子として作るときも、大人になったときのことを考えてデザインしています。素材選びや作り方は大人の物を作るときと全く同じです。大人の持つ価値観に合うように、その作りも、デザインも仕上げてあります。

もうひとつ、素材と同時に気持ちも大事。本気で作るからこそ大人も子供も楽しめるものになると思っています。


小さい椅子と小さい机

小さい椅子家族

小さい椅子、初めての展示会で

長く使えるということ

こどもの頃に使っていたものだからこそ、大人になったときにも使えるようにしたいと思います。思い出の大切さというのは大人になった時に初めてわかるものではないでしょうか。椅子についた傷などを見てふと思い出すことがあって子供の頃にスッと戻る・・ほっとして気持ちが安らぐことがあるのではと思います。

しっかりした家具はとても長持ちです。20年、30年はごく普通のこと。100年前の物もよく見かけます。今日、量産品含め色々な作り方がありますが、今どきの作り方というのは「早く安く」が主になっています。さて、これで長い年月に耐えられるのかどうか。それは丈夫さだけでなく、価値観も含めて40年、50年先でも受け入れてもらえるのかどうかということです。長く使える道具を作るとき、それを考えておくのは大事なことです。

モノ作りとしての結論は、しっかり作ること。先人を見習って作ることでしょう。しっかり作るというのは手間を惜しまないで作ることです。よく考えて、ちゃんと作ることです。小さい椅子も、そういう作り方を選びました。子供椅子だから簡単な作り方で済ますという考え方はしません。子供椅子を探している方にとってはもしかすると、これはもったいない、ちょっと高いと思われるかもしれません。でも、そういう方にこそ小さい椅子を手にとってもらいたいと思います。家具という道具は長く使えます。そして長持ちするとどうなるのかということを想像してもらえたらと思います。

始めに敢えて現実的な話をしてみましょう。「消費される価値」ということ。これは価格をその耐用年数で割返して計算します。毎日使うものなら実際どれくらいの価値なのかということです。例えば、最近気になる掃除機はどうでしょう。お気に入りの6万円の掃除機を15年使ったら、1年4000円ですから1日11円ほど。ちょっと意外な額ですが、長持ちすれば毎日消費していく金額は少ないものです。さて、小さい椅子ならどうか。同じくらいの金額でも、30年以上は使えますから1日5円程度。これが消費される価値です。そして比べれば小さい椅子の方が掃除機よりもお得と言えるようです。確かに数字に嘘はないのですが、なにかしっくり来ないところがあります。道具の価値を数字で考えるようになったのはいつの頃からでしょうか・・

現実は目の前にありますが、そればかりを考えると中身を失ってしまう気がします。消費という考え方そのものにボタンのかけ違えを生む何かが隠されているように思います。

掃除機は15年でその役目を終えるでしょう。ですから消費されてしまいます。でも、ちゃんとした道具は15年で「消費」されることはありません。15年経ったときその分の思い出と共に価値あるもの、代え難いものになっているはずです。包丁や腕時計など昔から大事にされてきた道具はみなそうでしょう。親の代から受け継いで使っている物があります。小さい椅子はどうなるでしょう。お子さんが成人して家を出るときに「この椅子、持って行くね。」と言ってくれるかもしれません。また、大きくなったお子さんが新たな家族で使うことも。そのお子さん、あるいはお孫さんが受け継ぐこともあるかもしれません。

身の回りの道具すべてを消費するものと思うのは寂しいものです。昔ながらの考え方も残しておきたいと思います。当たり前に長持ちする家具の性質はここで生きてくると思います。家具は思い出や気持ちを受け継げる道具なのです。長く使うということは消費しているというよりも育てていると言えないでしょうか? 道具を育てて受け継いでいくこと。そこには家族の優しさがあり、その優しさを受け渡していくことのように思います。

思い出の話しに戻ります。楽しかった思い出、そしてそれを思い出すときに感じる何か安らぎのようなもの・・それは辛いこともある大人になってわかるとても大事な何かです。小さい椅子が、小さい頃からそばにあり、大人になってもずっと使っていたとしたら、その大事な何かを思い出すきっかけになれるかもしれないと思っています。安らぎを得るきっかけになれたらいいなと思います。・・これが小さい椅子の願いです。

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